虫歯や歯周病は風邪と同じ細菌による感染症です。
そして歯を失った方の約70%が虫歯や歯周病が原因によるものです。
虫歯と歯周病は歯科の2大疾患です。
本当は予防できるのに、
なぜ多くの方が虫歯や歯周病を患っているのでしょう?
健康な歯の維持は全身の健康に繋がります。
虫歯の理解を深め、健康増進に努めましょう!
虫歯の原因となる細菌を総称して“虫歯菌”と呼称しますが、この虫歯菌、実は口腔内の常在菌の一種と考えることができます。
虫歯菌は私たちの摂った食物に含まれる糖分を分解してエネルギーを得ます。そして、老廃物として酸を排出しながら活動します。この酸によって歯が溶ける疾患が虫歯です。
誰のお口の中にもいる虫歯菌・・・
では! なんで虫歯に“なる人”と“ならない人”がいるの?
ここでは虫歯の要因について考えてみましょう。
虫歯菌の出した酸によって歯が溶ける現象が“脱灰”です。
その一方、私たちには歯を修復する能力(自然治癒力)が備わっており、これを“再石灰化”と言います。口腔内では食事のたびに”脱灰”と”再石灰化”が繰り返されているのです。
食事をすると口中の糖分が増えて、それを餌とする虫歯菌の活動が活発になり、自身の老廃物である酸を多量に排出するようになります。
この多量の酸によって口中が酸性(pH5.5以下)になると、歯の表面を構成するエナメル質からリン酸やカルシウムが溶け始める“脱灰”が起こります。
しばらくすると口中は唾液の持つ緩衝作用によって徐々に中性に戻り始めpH5.5を過ぎると歯の脱灰はなくなります。さらに中性が進むと、唾液に含まれるリン酸とカルシウムによってエナメル質が修復される再石灰化が始まります。
口中が中性領域(pH6.0以上)にある間は虫歯は進行しません。
上の説明から頻繁な間食は“虫歯のリスクを高める”ことがわかります。
歯質が弱い、唾液量が少ないなどの体質の方はなおさらです。
このような方は、おそらく虫歯も多く、将来的にはブリッジや入れ歯、歯科インプラント治療などが必要になってしまうでしょう!
キッチンの排水口のヌルヌル…
これ実は細菌など無数の微生物の集合体でバイオフィルムと呼ばれています。
お口の中も同様で虫歯菌などの微生物はバイオフィルムを形成します。
※プラーク(歯垢)の塊と考えても間違いではありません。
バイオフィルムは粘性が強く、歯磨きだけではなかなか落とせません。また、成熟すると抗菌物質や免疫細胞を跳ね返す強力なバリアーの役目を果たすようになります。
バイオフィルムの中では歯の再石灰化は期待できないため、虫歯菌の出す酸によって溶けていくばかりとなってしまいます。
脱灰と再石灰化のバランスの崩れから進行する虫歯ですが、進行度合いには個人差があります。
虫歯の要因は4つあり“歯質や唾液の質”もその1つです。つまり、”虫歯になりやすい”・”虫歯になりにくい”といった虫歯のリスクは人によって異なってきます。
虫歯の要因を1つ取り除くことができれば、
虫歯はできません!
とは言っても、歯質や唾液の質・虫歯菌・食事の3つは取り除くことはできません。しかし“脱灰する時間”だけは短くすることができます。
これが虫歯予防の最大のポイントです。
お菓子を食べたり、ジュースを飲んだり、間食って幸せですよね!
でも、間食は“脱灰の時間を減らします”。だらだらした間食は避けるようにしましょう。
例えば、
食後すぐのお菓子やジュースはOK、寝る前の間食はNG、10時、15時などおやつの時間を決めるなど、
再石灰化の時間を意識しましょう。
歯面にこびりついたバイオフィルム・・・
歯磨きだけで落とせる方はかなりのプロフェッショナルです。
毎日の歯磨きと歯科医院での口腔ケア(定期管理)でバイオフィルムの拡大を抑えていれば、再石灰化が正常に機能するので、虫歯予防はもちろん、歯周病や口臭予防になります。
虫歯や歯周病は日頃の生活が深く関与する生活習慣病と考えることができます。
食生活の乱れ、お口の衛生状態の良し悪しを振り返り、正せることは直して健康増進に努めましょう。
皆さんが虫歯にきづくのはどんな時ですか?
ほとんどの方は歯の痛みを感じた時だと思いますが、歯の痛みは虫歯が象牙質まで進行しないと感じません。
でもこの状態は右図のようなC2(象牙質う蝕)まで進行した虫歯です。
歯医者さんで歯を削らないと治せない虫歯です!
歯の表面が白く濁ったようになり、エナメル質の透明感が失われた状態です。
歯科医院でないと発見できませんが、歯を削らずに、また痛みのない治療ができます。
初期虫歯の治療
歯の清掃をして虫歯菌や汚れを除去した後、フッ化物を塗布して歯質を強化し、歯の再石灰化を促します。
その後、歯磨き方法を説明してから、自然治癒を期待して経過を観察します。一定期間後の検診で治癒していれば治療は終了です。
子どもの場合はシーラントを施す場合もあります。
歯面のエナメル質が溶け始めた状態の小さな虫歯です。
歯科医院でないと発見できませんが、歯を削らずに、また痛みのない治療ができます。
エナメル質の虫歯の治療
C0(初期虫歯:要観察歯)の治療内容とほぼ同じです。
しかし、エナメル質が溶けた本格的な虫歯なのでしっかりした経過観察が重要です。
虫歯が進行する可能性が高い場合は、ほんの少しですが歯を削ることもあります。
象牙質に達した虫歯は歯髄(歯の神経)に近づくにつれて歯の痛みやしみを感じるようになります。
象牙質はエナメル質より柔らかいので虫歯の進行が早く、早急な治療が必要です。
象牙質の虫歯の治療
虫歯に侵された象牙質を除去して詰め物をします。
保険診療ではレジン(プラスチック材)を詰める治療、奥歯の場合は銀色の修復物(金銀パラジウム合金)になります。
自費診療では色が目立たない良質なセラミックス、奥歯では生体と相性の良いゴールドなどの歯科材を使った治療になります。
虫歯が歯の神経(歯髄)に達した大きな虫歯です。
歯髄炎(歯髄の炎症)を起こしていると、ズキズキと激しい痛みがあります。
歯の神経に達した虫歯の治療
歯の神経(歯髄)を除去する根管治療を施し、かぶせ物(クラウン)による修復処置をします。
根管治療は歯科医の腕の見せ所です。いかに質の高い治療を施せるかで、その歯の将来は変わってきます。
修復処置では、
保険診療ではレジンを被せる治療(前歯:硬質レジン前装冠)、奥歯の場合は銀歯(金銀パラジウム合金)になります。
自費診療の場合はご希望に応じた様々な修復物を使うことができます。
虫歯菌の感染状態によってはドックベストセメント法や3Mix法で歯髄を温存(歯髄を生かす)することも可能です。
虫歯によって歯冠部が崩壊し歯根部のみが残った状態です。すでに歯の神経(歯髄)は死んでいるので基本的には痛みはありません。
痛みがなくても無数の虫歯菌の住み家になっています。健康な他の歯を守るためにも早急に治療するべきです。
また、歯根先端部に膿胞(袋状の膿)ができると、再度の根管治療が必要になり、最悪の場合、抜歯することもあります。
歯冠部が崩壊した虫歯の治療
歯根部が土台として使える場合はC3(歯髄の虫歯)とほぼ同じ治療になります。
抜歯が必要な場合は、両側の歯を支えとしたブリッジによる治療になります。連続して2本以上歯がない場合は部分入れ歯になる場合もあります。自費診療ではインプラントの選択肢もあります。
虫歯の治療で削った歯は人工的に補てんして元の形状にしますが、歯の形態や治療部位、削った量に応じて様々な修復方法があります。
また、口腔機能の回復に重点を置いた保険診療と、口腔機能と見た目(審美性)の両面の回復を追求する自費診療があります。
歯磨きは虫歯を予防する最も効果的な方法です。
またC0やC1レベルの症状の軽い初期虫歯を治す治療方法でもあります。
しかし、歯の隅々まできちんと磨けていないと無意味なため、TBI(歯磨き指導)で歯磨きの練習をします。
TBIでは最初に染め出しによる磨き残しチェックをして歯磨きの欠点を確認します。その後、正しい歯磨き方法を説明し、実際に磨いてみます。口腔状態によってはデンタルフロスや歯間ブラシの使い方も説明します。
効果的な歯磨きができれば“歯を削らずに虫歯を治す”ことができるかもしれません。
PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)は予防歯科先進国スウェーデンで考案された歯科医院でおこなう歯の専門クリーニングです。
虫歯菌の温床であるバイオフィルム(歯垢や歯石)を除去し、口腔内を徹底的にきれいにする予防処置です。
唾液は虫歯に溶かされたエナメル質を修復する力を持っています。
TBIやPMTCで口腔内の衛生環境をつくり、併せてフッ化物塗布で歯質を強化すると唾液の機能が有効に働くようになります。
その効果から歯の再生能力が向上するので、初期虫歯の自然治癒を期待できます。
フッ素には歯の再石灰化を促したり、虫歯菌の活動を低下させる働きがあります。小さな虫歯であればフッ素と唾液の力で自然治癒も可能なほど強力です。
C0・C1など症状の軽い虫歯は、歯の清掃、フッ化物塗布、TBI(歯磨き指導)をします。その後の経過観察で虫歯の治癒が確認できれば、歯を削ることはありません。
虫歯に強い歯質づくり | 歯面が強化されて、 虫歯菌の出す酸に負けない歯質になる |
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歯の再石灰化を促進 | 唾液中に含まれている歯を構成する成分(カルシウムやリンなど)が歯面に付着(再石灰化)しやすくなる |
虫歯菌の活動を低下 | 虫歯菌の活動が低下すると酸の放出量も減少するので、 脱灰による歯面溶解が減少する |
フッ素(F)は海草類や魚類、お茶などにも微量ですが含まれている元素です。
栄養学では少量ながらも必ず摂取しなければならない“微量栄養素”とされています。
光照射によって硬化する性質(光重合)を持つ特殊なレジン(プラスチック材)を塗り固めながら歯の形態を修復(積層法)する治療でボンディング処置とも言います。
欠けた歯の修復や盛り足してすきっ歯を改善するなど応用範囲が広く、またインレー(修復物を詰める治療)よりも短期間に治療を終えることができます。
保険適用の軟性レジン材を使用すると治療工程がシンプルになり安価に治療できますが、変色しやすく歯の色調の持続性に若干難があります。
虫歯を削ってから歯型を採取し、歯型から製作した修復物をはめ込んで接着する治療です。
右図のような奥歯の歯と歯の間の虫歯の治療などに比較的多用される治療方法で、素材には金属やハイブリッドセラミックスなどがあり目的や希望に応じて選ぶことができます。
クラウンは歯を大きく削った場合にかぶせる修復物です。
様々な材質の修復物があり、前歯 or 奥歯など治療箇所、治療目的によって異なります。
前歯の場合はレジン(プラスチック)前装冠・メタルボンド・ジルコニアセラミックス、奥歯の場合は金銀パラジウム合金・金合金・メタルボンド・ジルコニアセラミックスなどがあります。
虫歯は歯を削って治しますが、(歯を削る=歯を傷付ける)なので歯の健康寿命は短くなるので、将来の健康を考えると決して良いことではありません。
そのため、当院では通常の虫歯治療の他に“できるだけ歯を削らない、傷付けない”ことを優先したMI治療を導入しております。
MI虫歯治療は、お子さまやご高齢の方、歯科恐怖症(痛がり・怖がり)の方、ショック既往歴のある方や有病者の方などにもお勧めの治療方法です。
ドックベストセメント法では一般的な虫歯の治療のように歯を大きく削ることはありません。そのため歯の神経(歯髄)まで虫歯がおよんだ状態でも歯の神経を除去(抜髄)せずに治療できる場合があります。
ドックベストセメントは主成分が銅の歯に詰める薬剤です。銅から発生する銅イオンの殺菌力が永続的に働き“無菌化”を維持するだけでなく、歯の再石灰化(再生)を促す効果も持ち自然治癒力が効果的に機能します。
実際の治療では、歯を削る量を最小限に抑えるためにドックベストセメントで治ると判断した虫歯は削らずに、ドックベストセメントを詰めて経過観察により治癒を待ちます。
歯をあまり削らないので痛みが小さく、麻酔の必要がない場合もあるくらいです。